小説。4

美月からチョコをもらう約束をしていた僕は、いままでチョコをもらえなかった負け組から抜け出すべく家で待っていたのだが、美月は来なかった。
だが本当は、僕が気を緩めて買い物に行ったころに家に来ていたのだ。
そうとも知らず、美月に裏切られたとばかり思っていた僕は、自分の情けなさに落ち込んでいたのだった。

午後の授業なんて、聞く気にならなかった。
土曜の事。
美月が嘘つくようなやつじゃないと思っていた。

もしかしたら予定で来れなかったのかも、とか。
でも、あそこで断ると何となく僕だけかわいそうだから、
ノリで言ったのかもしれない、とも考えた。

何しろ朝から9時までずっと一人きり。
待ち続けた、が、来なかった。
裏切られた、と言う感覚しかもてなかった。
だから、自分の弱さ、かっこ悪さに耐えかねて、家を出てしまった。
まさか、そんな遅くに来るとは思わない。
本当に来たんだ。
チョコを僕に渡しに。

・・・・本命だったのだろうか。

いや、まさか。でも、この感じ。
美月が何となく僕を好んでる気がした、
と言うと何かあれだけど。でも仕草からして、そんな気がした。
告白すれば、いけるかもしれない。

悪魔:そんな訳ないだろう。よく考えてみろよ。
  お前あれだぞ?
  そんなかわいい女の子がお前なんか好きになるかよ。
天使:そんな事ないです。
  大智には、いっぱいいいとこあるし、
  告白すれば絶対いける。
  頑張って。

なんていう天使と悪魔の論争。
美月は僕が好きだったのか・・・
どっちも考えられない、と言うわけではない。
常識的に言ったら、ありえないんだ、僕が好かれるなんて。
でも、もしかしたら、100分の1以下でも今なら
OKもらえ・・
ないよな。仮に好きだったとしても、
僕は「渡しに行くから待っててね」という美月の言葉を踏みにじったのだ。
あの時家に残ってれば、今頃美月と二人でどこかに出かけていただろうか。

買い物行って来い、と言った母さんをうらんでもしかたない。
美月に謝りに行かないと。

でもなんかなぁ。
うーん・・・・・・・・・・・・。
気が重い、と言うか。
でも今まで、と言うか今、そうしてグダグダ過ぎて終わった。

  • 今度こそははっきり言わないと-

自分を信じろ。

 * * * * * *

「どうした?寝ちゃって?・・・まだ引きずってんの?
 くよくよしてもしょうがないから。なんか大智まで悲しませちゃってごめんね?
 ちょっと暗かったかな。元気出せよ。っていうか、早く起きないとまずいよ。」
気がつくと美月が明るく微笑んでいる。
「みっ・・・美月か?」
「ごめんね?さっきは。」
美月が、話しかけてくれている。
僕はどう答えればよかったのか、全く整理がついていない。
「ん、あぁ、僕の方こそ悪かった・・・・
「この、馬鹿者がぁアアあァぁああっ・・・!」
叩かれる!?
ぺしっ!という音と共に気がついた。
あれ、何か痛いような・・・・
「早く起きろ。授業にちゃんと集中しなさい」
う?ええ、あぁ、何だ、夢かよ。
授業中だった。完全に寝ていた。
どっからどこまでが夢だ・・・・?
とりあえず、頭を整理する。

・・・そうだ、確か授業中、美月のこと考えてたんだった。

美月は、相変わらず下向いて絵を描いている。

どことなく話しかけにくかった。
話す気にならなかった。
何から切り出していいか、分からない。
でも、ただ一つ分かるのは、今すぐに美月に謝らないといけない、
って事だった。

なんて声を掛けようか。

さっき立ち上がるときに何か言ってた気もした。

ここはごめんね、って声をかけてあげるべきか。
いや、でも逆に傷つくことだってあるしな・・・
こんな状況に置かれると、
美月が話してくれなくなるんじゃないかと思って、不安になれる。
でも、なんていえばいいのか分からない。

「好きです」って言っちゃうのか。
それはただのアホがやるようなことと分かりきっている。

女の子ってむずかしいなぁ、
と言っても原因は僕だし・・・

 * * * * * *

「美月!この間はごめんっ
 本当、悪かったよ、約束破ったりして。
 ・・・・・・・っと」
ここは素直に謝った方がいい。と思った僕は美月を探して、謝った。
75度ぴったりと頭を下げる。
「・・・・・・(それだけ?)・・・」
口も聞いてもらえない。動揺した僕は、頭が真っ白だった。
「んっと、えぇえ〜っと、なんていえばいいのか、
 その、ほんと、チョコ・・・・
「・・・バカっ!それ以上言わないでよ。
 あんたなんか、あんたなんか、お前なんか・・・・」
だめか。長いトンネルのまん中にいるみたいだ。
それも真っ暗な。
どこに出口があるかなんて、目では見えない。
そりゃ許してくれなくたって、文句は言えない。
悪いのは僕なのだ。
そして美月は少し落ち着いて、涙をこらえるかのように深呼吸している。
「今度約束破ったら、承知しないんだから・・・
 分かった!?分かったら跪(ひざまず)きなさい!!」
言われるがままにやってみよう。プライドもクソもない。
指示に従って、土下座しそうになったとき、美月は笑っていた。
「アンタほんとに土下座するつもりだったの!?」
「う・・・・うん・・・・」
許してくれたのか?と言うか跪けってな、おい。
まぁ、それが美月らしくてかわいいんだけど。
「ば・・・っかじゃないの?俺がそんなことで怒るとでも思った!?」
状況を理解するのに3秒位はかかっただろう。
・・・うん、よかった。また平凡な、のんびりとした生活が送れそうだ。
とりあえず問題は解決したわけで、あとはアタックあるのみ。
さぁ、頑張るぞ。

 * * * * * *

3月12日。

もうすぐ、ホワイトデーなる日が来るのだが、僕は暇して
ゴロゴロしてゲーム。
言うまでもなく、この日には女の子に男子がお返しする日だ。
一応、クッキーとか生チョコとか作れるから、誰かにあげようかな、
と思っていたが、あげる相手は見つからず。

大親友の、野末と輔は甘いものダメで、
美月には、もらってないから返しちゃだめなのか?
でも本人は渡すつもりだったんだからいいよな・・・・?

 * * * * * *

最近悩み事が多いせいか、眠れないことが多い。
彼女でもいてくれたらなぁ、
やる気出るだろうになぁ、と言う意味をこめて、
ため息を一つ。
なんで「好きだ」って言えないんだろう、と
ため息を一つ。
俺何してんだ、勉強しないと、って意味をこめて、
ため息を一つ。
はぁ、ため息ばっかだ。
・・・・またため息が出たよ。
どうしようもないことか。

落ち込んではいられない、今日は14日だ。
つまりクッキーを作って、美月の家に渡しに行くのだ。
ある意味違う意味の”お礼”としてあげるわけだが、
果たして喜んでくれるだろうか。

玄関の前まで行き、心の準備を整える。
ーぴぃーんぽぉーん♪
「はぁい?」
ガチャっ、と言う音と共に出てきたのは、美月では無かった。美月が出て来てから話すことしか考えていなかった僕は、混乱していた。
「あの・・・誰ですか?」
出てきたのは美月とはまるで正反対のギャルっ気あふれる女の人だった。
誰、ってこっちも聞きたいくらいだった。とりあえず美月はどうしたのか、聞かなくては。
「ええと、古川さんのお宅ですよね?」
「そうだけど、誰ですか?」
「美月さんと同じクラスの石崎ですが、美月さんは・・・」
「あぁ、美月ね。今さっき友達と遊びに出掛けてったみたいよ?で、なんか伝えとくことある?」
「えっと、これ・・・渡しておいて欲しいんですけど」
「これ?美月に?わざわざありがと〜」
「お願いします」
「とりあえず、美月に『彼氏が来たよ』って言っとくね。じゃぁ」
「ちょ、ちょっと・・・」

その後、あの怪しげな姉さんが美月になんと伝えたのかは、わからない。
美月が出なくて、良かったのかも知れない。

 * * * * * *

4月の上旬、始業式。
2年生に進学した僕は、小さくなった制服を
買いなおし、埃のない黒い服に身を包んで先生の話を聞いていた。
輔と、野末も同じクラスになった。
そして部活で、やっと「先輩」って呼んでもらえる時が
きたと言う喜びと同時にこの1年
何もやれなかったというこの情けなさ。
複雑な気持ちでいた。

次の朝、僕は根も葉もないうわさを耳にした。
「なぁ、お前ってさ、敦美(あつみ)の事好きなんだろ?」
クラスのお調子者男子3人組が囃したてる。
誰かが変なうわさを流したのか。悪ふざけには変わりないが、何の恨みがあってこんなことした??
「はぁ?」
もちろん、とぼけたわけではない。僕が美月以外を好きになるはずがないのだから。

加古 敦美(かこあつみ)。
1年生の頃、そういえば同じクラスだった。
学級委員をやっていて、リーダーシップの強い子なのだが・・・僕のタイプではない。
「んなわけねぇだろ?」
の後に「ほんとは美月が好きなんだ」って付け足して言える訳がない。
そうやって言えばこの件については疑いも晴れるんだろうが、別に何か責められる事になる。
「とぼけんなって、うそだろ?」
「そんな照れて、本当は好きなんだろ?」

一人ならまだしも、3人に囲まれるとなかなか厳しい。面倒事は早く終わらせねば。
「そんな訳ないって、お前ら物分かり悪いな」
その一言がかえって周りを怒らせたのか、
「そうかそうか、キスもしたのに嘘つくのか」
・・・さらに酷い内容になってしまったではないか。
「は?あいつとキスするはずないだろ?俺だぞ?
できるわけないし、第一興味ないって言ってるだろ。普通に考えろ。相手が嫌がる」
どうなってる・・・・
僕は加古さんを好きだなんて
これっぽっちも思ってないし、
キスするなんてもってのほか。
ずいぶんとタチの悪い噂だこと。
「ホントの事いっちゃえよ」
本当の事しか話してないんだが・・・・・・・
「あのさぁ、その話って誰から聞いた?」
「別に誰だっていいだろ。」
質問に対して3人でハモって答えられるのも痛い。
カッとなるのを抑えて、冷静になって言う。
「あのさ、とにかくな?僕は加古さんと話したことも、好きだと思っても、キスしてもいないから。
うっとうしいんだって、そういう変な噂流されるとさ、俺ホントのことしか言ってねぇぞ?
もししたって言うんなら、
なんか立証する決め手はあるんかよ。」
いかにも刑事ドラマの犯人の
言い逃れみたいな喋り方してる僕。
いやぃゃ、ホントなんだけど。
進級してすぐの朝になんだよ。
よくいるんだよな、好きな人とか暴露する奴がさ。

と思ってたら、さらなる一手が降りかかって来る。
「おーい?加古さーん?大智が呼んでるぞ〜?」
「ちょ、まてって、呼んでねぇから」
「なに?何か用だった?」
おいおいおいおいおいおい・・・・・・正気か?こいつら?
とりあえず教室に逃げる。
教室は他のクラスの奴は入れないってきまってるから、とりあえずは何とかなると思うが・・・・・・・
問題は放課中だろうか。
でもこれだけで収まるはずもないんだよな・・・

  • この後、大変なことが起こる-

さて、さっきの
【好きな人を好きでもないのに勝手に名前を叫ぶ】
事件のほとぼりも冷めた頃、昼食の時間だった。
「大〜智〜〜の好〜〜きな〜〜人〜は〜か〜こあ〜つみ〜!!」
「だってさ、知ってた?」
「・・・・・・」
大声で何が叫ばれたかと思ったら、大きな声で、本心でもないことを暴露されたではないか。
僕の立場を無くすつもりかっ!?
小学生じゃあるまいし良くそんなことが叫べるなぁ、とか関心してる場合じゃないけど、
何か恨みでもあるのかと言わんばかりにしつこい。
「・・・・なんかあったか?」
と、輔は小声でささやく。
「いや、本命は加古さんじゃないんだけど、えーと・・・」
「分かってる。要するにヤバイのか」
「そういうこと、詳しくは後でいいか」
「・・・おい!おまえら、何がしたいんだ!?」
思わず、そう立ち上がる。
悪ふざけもいい加減にして欲しいところだ。
「あぁ?」
いかにもお前負け組だな、という目線を向けていかつい声で曖昧な返事をされた。
あぁ?じゃねぇよ、みんなこっち向いてるし。
というかこれ誤解だし。
何か女子グループがヒソヒソ話始めてるし・・・・・
この何にもたとえれない空気をどうしろって言うのさ。
別に加古さんのこと好きだって思ってない。
何とかみんなの誤解を解かないと。
それにしてもよく考えたよなぁ。
教室に入っちゃダメっていう決まりなら廊下で
大声で叫ぶとか、俺を社会的に殺すつもりか。
一体何の恨みがあるんだ?
どんなけ幼稚な頭してんだか。褒めてる場合じゃないんだけど。
「ってかさ、普通はそんなこと大声で言うか?あのよぉ、まずさ?
別に俺、恋愛とか興味ないしさ、第一好きとかないって。
勝手に変なデマながさんでくれん?」
あいつら3人組に向かって言う。
怒るととたんに口調が強気に変わってしまうのは、しょうがない。
てかまだみんなこっち向いてるのか、食事中だってのに。
みんな・・・・・・・?ってあれ?
美月は!?
美月がいない!?
一つだけ空席が、あれは美月の席だよな?
教室の全員が注目しているかと思ったら、席が一つ、ぽっかりと空いていたのだ。

                                        • -

はい、グダグダ乙ですね(笑
ちょっと場面を区切りすぎました。
すっごく読みにくくなったのを反省しています・・・・。