小説。1

※する人はいないと思いますが、無断転載を禁止します。

「”好きです”が言えなくて。」

いつにもなくじりじりと照りつけるまぶしい日差し。
葉っぱの色が変わり始めた秋の頃。
いつも通りの授業。

普通にご飯を食べ、普通に学校に行き、普通に授業を受け、普通の景色を眺めれる・・・。
僕らはなんていう幸せ者なんだろう。
ニュースでは麻生がどうとか金の使い道がどうとかって言ってたっけ。
国がどうのってさ。
お偉いさんは考えることが違うのかなぁ。
まぁ、日本で健康的に生きてれればどうでもいいんだけど。
こんなことを考えながら窓の向こうの空を見上げる。
今日は雲ひとつない快晴だ。
町の高台から見下ろす景色とは、とても格別なものだ。
時は中学1年の授業中だった。

「・・・・おいっ! 聞いているのか!」
みんなが一斉にこっちを振り向く。
気がつくと、なぜか先生が目の前に立っている。
机越しに立っている巨人を見上げると、しかめた面で僕を見下ろしている。
「なぜお前の前に先生が立っているのかが分かるか」
「何かやらかしたからだと思います。」
「そうだ、やらかした。ずっと授業聞いてなかっただろう」
「そうなんですかね?」
「バカもん!ちゃんと先生の話を聞かんか。」
「すいません・・・・」
「ずいぶんと余裕そうな顔してるな・・・そうだ、よし。黒板に書いてある問題にすぐ答えなさい」
"余裕そうな顔"って一体どんな顔をしていたのか鏡で見て突っ込みたいところだ。
考え事してるだけなのに。全く、どこに目がついてるんだか。

全く話を聞いていなかったから分からないかと思いきや、なんだ、簡単な図形の問題じゃないか。
「ここに書けばいいんですか?」
「そう言ったぞ。」
だからきいてないんだってば。
とりあえず答えを書けばいいんだ、うん。
ここは18度、あっちが114度だから、
なな・・・じゅう・・・・ご・・・でいいかな?
算用数字の7と5を、緑に白でくっきりと書いた。
相変わらず字は汚いが。
「よろしい。それだけできるんだから、もっと人の話を集中して聞きなさい。」
「・・・ぅぃ。気をつけます。」

なに考えてるんだろうか。
授業に集中しなければいけないはずなのに。
・・・分かっててもめんどくさいじゃん?
学校の先生って余分な話多いんだよ。
もう少し要点を絞って、面白い話でもしてくれないもんなのかなぁ・・・・。
自分だってつまらない授業してるくせに、なんだよ。
先生の話が面白けりゃ、みんな真面目に話を聞くんだよ。
なんでわからないのかなぁ、まったく。
目の前で漫才をやってたら寝る奴なんていないだろ。

早く家に帰りたい。ゲームしたい。寝転びたい。ご飯食べたい。
・・・明日も学校かぁ、やだなぁ。なんかいつの間にか気づいたら中学入学してるし、3年後には受験だろ?もう気が重いよ。
「・・・・・誰か、この問題解ける人。」
その声と同時に、ヒソヒソ声がすうっと消えていく。問題に当てられるんじゃないかと思うと、みんな静かにするのは当たり前だろうか。
答えるバカがいるのか、と思って教室をクルリと見渡す。
手を挙げようとする奴なんているわけないだろ?
下向いてる奴、あからさまに寝てる奴。
無理やり先生のほうを見てる奴もいるが、それが一番賢いのか。
そして一人はこっちを見て合図を送ってる。
「お・ま・え・や・れ」
・・・・・手話で言うなよ。
しーん、としている。
これはしょうがない、僕がやるか。
「はい!僕がやります」
みんなの視線を受けながら成績上げを狙うべく、席を立った。
「お前勇者だ・・・」という目でさっきの合図野郎はこっちを見ている。

チョークを持って数式を書き込んでゆく。
くそう・・・なんでこうも字が汚いんだ。
しかもなぜ書いていくと下へ下へと字が曲がるんだ。
「できました。」
「はい、よく解けたな・・・・。」
「正解っ!!!」
・・・おぉーっ!っと言う声が聞こえてきたのは、言うまでもなかろうか。

何がすごいのか。
普通に勉強してなくて、外を見てるだけでも解けるんだが・・・。
わからない。普通のことをしたまでだと思うんだけど。

・・・・こんな地味な問題解けるくらいなら、もう少しぱっとした才能が欲しい、といつも思う。サッカーでシュート決めれるとか、野球で球をかっ飛ばせるとか、足がすごく速いとか。
この学校で付き合ってる・・・といったら、いわゆる「イケメン」って奴だ。
しかもそれに限って運動能力が抜群なのだ。
そんな男のほうが絶対、女の子にはかっこよく映るに決まってる。

僕だってモテたいよ。

と、あこがれるのも、僕は運動能力0に近いからだ。
水泳部所属と言ったものの、そこまで泳ぎが速いわけでもないし。
肉体もできてないし、何しろ背が低い。並んだときに一番前ではないけど。
でも、僕は学年の成績では中の上くらいにいるって先生からは聞く。
だけどこれっていいもんなのか?
特に授業中以外でみんなのために活躍できる訳ではないから、イマイチ目立たない。趣味もいたって普通で、90%以上の男子が答えるであろう「ゲーム」。
とは言ったものの「めっちゃ強い!」って言われるわけでもないし、
円周率が下200桁言えて、元素名を全部言えること以外はコレといって
「お前すごいな」とか、尊敬される部分がない。
ホントに普通の目立ちもしない石崎大智(いしざきだいち)という名の男子。

「きっと、俺なんて・・・・・・さ、いいとこあんまないんだよな。」
小声でそうつぶやくと、なんだか深く考えすぎてしまう。

「おっ、さすがだいちゃんじゃん!
・・・・お前って、頭、すごいいいよな。
俺、バカだもんでさ、ちょっと教えてくれない・・・・かな」

かわいらしい声で、隣の席から女子なんだが何故か男口調の声が聞こえてくる。
いつも、この声に変にドキッとしてしまうんだ。
なんていうんだろうな、優しくて、何となく親しみがあって、明るくて・・・
すっごく可愛い。
その隣の席の彼女の名前は古川美月(ふるかわみづき)。
美術部で、絵も上手いし。
学力は・・・・・・多分僕以下だけど。

「おーい?きいてる?」
あまり目立たないせいなのか、彼女はいつも僕に話を聞かせてくれた。
優しく話しかけてくれた。
でも、なぜだろうか。僕に好意が・・・・・・
(いや、そんな訳ない。
僕に興味があるはずなんてないのだ。
第一好きなんて、もってのほか。
いままで一度もかっこいいなんて(冗談以外で)言われたことないんだから。)
多分、友達としてだろう。いや、学力の面だけで頼りにされてるんだろうか。

「おぅい?ねぇ、聞いてる?」
はっと気がついた。
「お、ごめんごめん、ちょっと考え事してて・・・。」
小さい顔がうつむいてる僕をのぞきこんでいた。
「なんだ、らしくねぇなぁ。」

・・・僕は、いつの間にか、彼女が好きになっていたのだった。
小学6年の頃くらいからだったかな。あまり意識はしてなかったけど、いつの間にか。「友達になろうぜ」って言わなくても自然に仲よくなるようにさ。
でも、それを話せずにいた。
こんな小心者が「好きです」なんて言えるわけないだろ。

「で、どうやってやんのさ、この問題」
簡単・・・よりはちょっと難しいグラフと式がならんでいるプリントを指差しながら、美月は言った。
「あぁ、それな、ええと・・・・・なんて言えば上手く伝わるかな?」
「・・・・・??」
彼女はいつの間にか僕の机の横にイスを持ってきてちょこんと座っている。
あぁ、だめだ、美月のことでいっぱいで上手く頭が回らない・・・。
「・・・・・ええと、ここがこうだから・・・・ん?ちがうなぁ、こうか・・?」

だめだ、彼女の胸が大きいせいなのか。
軽くCくらいはあるんじゃないかというその大きい二つのモノの間がものすごく気になる・・・。
・・・そんなこと考えちゃだめだ、なにやってるんだ、俺。
困って、僕を頼ってきてくれているのに。
「あ、わかった!えーと、このxの変化の割合が・・・・・このグラフを・・・・ね?わかった?」
「えっと、・・・じゃ、これの答えは”わいいこーるえーえっくすいたすに”ってこと?」
また何かいけない言葉が聞こえたきがする。
あぁ、また僕は何を・・・・・。
「うん、よし。わかって・・・もらえたかな?」
「うん、あ、あ、ありがとっ。」
「いや、長々とごめんね。」

******

午前中の授業が終わり、昼食の時間だ。
僕はいつも、輔という友達と一緒にランチを食べる。
彼も美月と同じ美術部だ。
彼とは中1の時からの親友で、肌は色白で、メガネをかけているのでひ弱そうに見える。が、実は少林寺拳法を習っていて、黒帯の2段らしいから、うかつに手を出すと大変なことになる。
ゲームに関してはすごく、クラスでドラクエが一番強いクラスメイトから勝負を申し込まれた後、そいつを3回連続で負かせて帰ってきた、すごい奴。
「かくれゲーム王」っていうあだ名がついているのは外見と中身のギャップからだろうか。学力は、俺より少し下らしい。冗談が結構きついけど、いい友達だ。

と、ちょうど向こう側から輔らしき人物が駆け寄って来た。
「飯行こうぜ。今日はラーメンだってさ、やったな!!」
「おぉ、分かった。りょうかい。ちょっと待って。」
「『分かった』ってのは2回言わなくていいんだよ」
「鋭いな・・・」

いつものように、ゲームの事とかを話しながら、ランチを食べている。
どこまで進んだ、とか次のゲームの発売日、とか。
だけど話題というのはころころ変わるものだ。
「なぁ、今日お前いつもより元気がねぇけど、どうかしたのか?」
「”いつもより”って、おいおい。そんな元気なく見える?」
「なんか、うーん・・・・すごい負け組のオーラが出とる」
「そう見えるか?」
「冗談。」

僕は、美月に想う気持ちを、輔に話そうかとも思った。
いい相談相手になってくれるんじゃないか、と思ったからだ。
でもやっぱり冗談とか言い合う仲では・・・言いにくい。
茶化されるんじゃないか、真面目に話を聞いてくれるのだろうか、という不安もあって、言わないことにしよう。
・・・と、思ったのだが、どうもむしゃくしゃする。
「なぁ、やっぱなんかあったろ?」
輔は僕の顔色を伺っているんだろうが、何か変に目が合う。
直接「美月が好きなんだけど、どうすればうまくいくかな?」なんて僕の口から言うのはさすがにできなかったから、
それとなく示唆したほうが・・・・・・
でも、今ここで言うのは。そんな高度なことできないから、帰りにしよう。

******

帰り道。さっきのこともあって、今日は輔と二人で帰る。
「なぁ、あのさ、話があるんだけど・・・」
「何だ?言ってみろ?」
「・・・・・・。」
「何だよ、早く言えよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「あぁ、分かった。お前、”好きな人”でもいるんだろ??」
「いいいい、いいや、あ、ちがうよ。」
「冗談だよ。」
「でもその感じから行くと的中だな。」
「いや、あの・・・」
「やっぱりな、お前、ごまかすの下手だなぁ」

さすがに輔は鋭いか。
というか、気持ちが顔に出すぎているのかも知れない。
・・・いや、自分から言うのは嫌だから、聞いて欲しかった。
それで、あえて分かるように、ね。狙いどうりだ。
「なぁ、誰、だれ?」
「・・・・・・・・ぃゃぁ・・・。」
「言えよ。つーか言わねぇと拳がお前の腹にヒットするぞ」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・美月。古川さんです。」
照れながらも、一生懸命言ったつもりだ。
「・・・・・・そうか・・・・・。」
いつも冗談ばかり言うあいつがやけに静かになる。
”空気”を読んでくれたのか。ありがたい。
「どこが?どこが??」
と思ったのはやはり間違いだったようだ。
「どこが良いのかさっぱり分からん。」
「何でさ!アイドルだってあの子の可愛さには勝てないだろ。」
「冗談だよ、結構分かる気がする。一応、応援してやるよ」
「あ、ありがとな・・・・・・。」

−−後々、こいつがカギを握ることになるとは、まだ僕も予想していなかった。
そうだ、ここから出来事は始まった。
そして、輔に話した事が、僕を大きく狂わせようとは−−

「でさ、真面目な話。告るの?」
「いや、告るとかそういうのじゃなくてさ」
「じゃぁなんだ?あれか、(笑)胸だけか(笑)。」
こいつ、冗談で言ってんのか、本気なのか分からない。
まぁ、魅力的な部分でもあるのだろうが。
「違うよ。そんなんじゃない。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
それから、沈黙は長く続いた。
実際、僕は彼女のどこが好きなんだろう。

改めて美月についてよく考えた。
彼女は、僕にとっての”天使”のような存在だ。
僕が悲しんでるときも、部活で一生懸命走っているときも、にこやかで、さわやかな笑顔を僕にそっとくれた。
僕にとっての美月とは何なんだろう。
”支え”なんだろうか。
単にアイドル的存在なのか。
それとも、もっと別の感情か。
”友達の仲だ”と彼女は思っているだろうか。
ここのところ、イマイチハッキリしないんだよな。

そして、いつものように、時は流れて。
輔に美月のことを話してから数週間後。

考えに考えついた。
恋愛小説とかでよく読む、”なんともいえないこの感じ”っていうのは、いままさに僕が抱いている感情じゃないのか。
そう思った、というかそう考えるしかなかったからだ。
これは、”恋愛感情”というらしい。
辞書を見ても答えは載ってない、科学では解明できない。
もしかしたら人類最大の謎・・・・

こんなことを考えながら、学校の行き道。
いつも輔と一緒に登校している。
ゲームや、深夜アニメの事や、何話してたっけな。
ネタがなくなってからだった。
「・・・・で、美月はどうよ?」
「”どうよ”って?」
「狙えそうか?」
「狙うってか?狙って・・・・るのかな??」
「ずっと思ってんなら狙ってるって事じゃない?告白しちゃえよ(笑)」
肩をポン、と叩いたつもりなんだろうが結構力はいってる、痛い。
「告白、かぁ、・・・・無理だなぁ。」
僕は完全に自分に自信が持てていなかった。ダメだ、と思っていた。
輔「無理だな(笑)やめとけ(笑)
『当たって砕けて、はい終了。で、the end。』にはなりたくねぇだろ??自分のためだろ。」
さらに、釘をさすように輔が
「そうだよな、はは・・・何言ってんだろ。俺、高望みしすぎだな。」
「その顔じゃな(笑)」
・・・・うっ。
冗談であって欲しいところだが、認めざるを得ない。
「冗談だよ、冗談。」
(・・・・・本気にしか聞こえない。絶対俺の顔見て言葉付け足しただろ。)
「まぁ、な。俺になんて好かれたら美月はたまったもんじゃねぇよな。」
「てか中学生で付き合うとかありえんし。何すんの?キスまでか?んんだ、その次はないのか」
(何言ってんだこいつ・・・・)
「ねぇだろ。その次やったら犯罪だろ?」
「え?犯罪になんてならないんじゃなかったっけ?合意なら」
「話がそれすぎてねぇか?」

そうだ、輔の言うとおりだ。
付き合って何するんだ。どこかにデートでも行くのか?
遊園地でいちゃいちゃするのか?
高校生じゃあるまいし、無理だろう。
早すぎる。キスだなんて。
ただの嘆きにしか思えないのだが、しょうがない。
たかが中学生の恋なんか知れてる。
ふん・・・・・・・・
恋愛になんか興味ないよ。と言い切りたい。

でも、美月に恋愛感情というのをを持ち始めてから、何してても”物足りない感じ”がした。
というか、励まされてすごく嬉しかった。
欲しいゲームが買えても、友達と話してても、家族旅行に行っても。
美月に”頑張って”と励まされた、そのときの喜びを超えれるものは僕にはなかった。

それだけ思っているんだ。なのに、思いを口に出せない。
”ごめんなさい”
断られることを恐れている自分がいる。
だから、何も進展しなかった。今までは。
だから、美月に言おうと決心した。
”好きです”と。

(まだ終わってませんが)あとがき。
ここまで書くと、なんだか続きが自分でも気になります(笑
状況が伝わりにくいかもしれません。
KTさんより書き方が・・・・・ですから。
楽しんでいただけると幸いです。
1週間後にupできるかな?
では。